成年後見人による移転登記

今回は、売買による移転登記で、売主に成年後見人がついている場合の必要書類についてお話します。(補助人や保佐人もありますが、今回は成年後見人に絞った内容となります)

そもそも成年後見人制度とは
精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)により、その方の判断能力が十分でない場合、不利益を被らぬよう家庭裁判所に申し立てをし、法律面や生活面で保護したり支援したりする制度です。
(弊社の成年後見ページ参照URL:https://shtrust.biz/)

 

成年後見人制度では、成年後見人が成年被後見人に代わって不動産を売却することが可能となります。

その売却対象の不動産が居住用不動産なのか、非居住用不動産なのかによって、移転登記に必要な書類が異なってくるのです。

 

居住用不動産の場合

いくら制度を使っているとはいえ、勝手に自宅等を売却されては本人も困ってしまうため、売却対象の物件が居住用不動産である場合は、家庭裁判所の許可がなければ売却することはできません。

居住用不動産といっても売却時点で本人が居住している不動産に限った話ではなく、
・現在居住していないが過去に生活の本拠となっていた建物とその敷地
・現在居住していないが将来生活の本拠として利用する予定の建物とその敷地
このような場合も居住用不動産となります。

「住んでいる自宅を売却」が本人にとって困ることなのは当たり前なのでもちろんですが、現在施設などに入居している場合でも施設を出た後の住居が必要となるため、簡単には売却できないのです。

 

このような不動産を売却し、その移転登記をする際には、
・居住用不動産処分許可書(審判書)
・成年後見登記事項証明書(登記申請日から3か月以内発行)
 (または成年後見開始の審判書及び確定証明書)
・印鑑証明書(登記申請日から3か月以内発行)
・実印

以上が必要となります。

 

あれ?権利証いらないの?と思うところですが、登記研究 779号 119頁【カウンター相談240】より、家庭裁判所の許可(許可書)を得て、成年被後見人に代わり成年後見人が登記申請をする場合は提供を要しないとなっています。
そのため提供できない場合の事前通知なども要しないとのことです。

理由としては、登記識別情報の提供を求める趣旨は、登記の申請が登記義務者の真意に基づくものであることを担保するということにあり、裁判所から選任されたものが裁判所の許可書を添付して申請した場合には、虚偽登記の申請の恐れがないと考えられることによるものとされています。

 

また、許可書の取得の手順については弊所の成年後見の事例集にありますので、下記のページをご覧ください。
URL:https://shtrust.biz/example/example-3442/

 

 

非居住用不動産の場合は?

では、非居住用不動産の場合は、どうなのでしょうか。

この場合は、家庭裁判所の許可が不要なため、居住用不動産と異なり許可書が出ません。
しかし、成年後見人が、本人の不動産売却を進めるにあたっては、居住用であれ非居住用であれ「売却の必要性」「売却の相当性」などを検討する必要があり、こうした「必要性」や「相当性」検討が必要なのは、裁判所の許可を得るためだけでなく、「不動産」という本人の重要財産を処分するということからも当然です。

そのため弊所では、家庭裁判所に上申し、後見人の裁量に任せますというような回答をいただいてからお手続きを進めております。

 

移転登記の必要書類としては、
・権利証または登記識別情報通知
・成年後見登記事項証明書(登記申請日から3か月以内発行)
 または成年後見開始の審判書及び確定証明書
・印鑑証明書(登記申請日から3か月以内発行)
・実印

以上が必要となります。

 

家庭裁判所からの許可書がないので、権利証が必要となり、もし紛失している場合には事前通知または成年後見人の本人確認情報が必要となるのです。

 

最後に

実際に、弊所で移転登記のご依頼をいただいた案件のほとんどが、司法書士または弁護士(法人の場合もあり)が成年後見人となっているのですが、

必要書類にあげた実印や印鑑証明書、これは司法書士や弁護士の個人のものになるのでしょうか?

この内容については、また別の事例としてお伝えしたいと思います。