相続登記 「本籍地が樺太、戸籍はどうする?」

 

今回は、新潟で登記手続きをしているとあまり目にすることのない、被相続人の生まれが樺太であったという場合の相続登記についてお話します。

 

〇戸籍の取得

相続登記の基本として、遺言などで相続人が指定されている場合などを除き、相続人の特定の為、被相続人の出生から死亡までの戸籍を添付する必要があります。

 

そこで今回問題になるのは、生まれが樺太であること。

 

一度は耳にしたことがあるであろう北方領土問題。
旧樺太は、一度は日本の領土となった地域ですが、第二次世界大戦後に日本が放棄しロシア領となったから、現在日本の主権が及んでいるとはいえず、日本の役所というものが存在しません。

 

つまり、樺太の戸籍についての発行が出来ない、そもそも取り扱っている市町村役場が存在しない状態となります。

 

しかし、樺太の戸籍のうち一部の戸籍については、その内容が「外務省」で保管されています。ですが、それは本当にほんの一部に過ぎず、以下の6つの村の戸籍のみとなっています。

・大泊郡知床村
・大泊郡富内村
・大泊郡遠淵村
・敷香郡内路村
・敷香郡散江村
・元泊郡元泊村

また、外務省のホームページを確認すると、上記の村に該当したとしても、終戦時に持ち出せた一部であることや、戸籍法上の戸籍ではなく行政文書のひとつとして外務省において事実上保管されているものである、と記載されており、終戦時以降の婚姻や出生等、更には終戦後の内地への転籍などはこれらの戸籍簿等には記載されていないということです。

さらに、開示請求を行った際、保管されていなかった場合にはその旨が回答されるようですが、これは外務省においては保管されていないことを回答するものであり、当該戸籍の滅失等を証明するものではないとも記載されていました。

つまり、戸籍が戦争で焼失している場合などに役所から発行される「廃棄証明」などと同じ扱いにはならないということです。

 

〇実際の相続登記手続き

さて、実際に弊所にご依頼をいただいた相続登記案件では、被相続人が17歳頃までの戸籍が樺太にあるという状況でした。

 

このような場合、どのように相続登記を行えば良いのでしょうか。

 

本籍地が外務省で保管されている村に該当する場合は、開示請求を行いない、そこから相続人情報を読み取る必要がありますが、今回は戸籍が保管されている6つの村に該当していませんでした。

 

そこで、以下のように考えました。

  • 前述の通り外務省からの保管されていないことの回答書は「廃棄証明」とは同じ扱いにはならないものの、戸籍が集められないことが確認出来る書類にはなるのではないか
  • 現在は廃止されていますが、以前は除籍等が発行できない場合、除籍等が発行されないことにより、法定相続人が特定できず、他に相続人がいる可能性が排除できないため、相続人全員から「他には相続人はいません」という上申をする、という趣旨で、上申書の提出が求められていた

以上2点から、集められるだけの戸籍を集め、「外務省からの保管されていないことの回答書」及び「相続人全員の『他に相続人はいない』上申書」を添付することで登記が可能なのではないかと考え、新潟地方法務局へ照会票を提出しました。

 

回答としては、「何もいらない」とのこと。

 

理由を聞いたところ、

・樺太の戸籍が発行されないことはもうすでに分かり切ったことであること
・相続人全員の「他に相続人はいない」上申書は平成28年3月11日法務省民二第219号法務省民事局長通達により廃止されたこと

以上のことから、取得できるだけの戸籍以外に必要な書類はないということでした。

 

実際に、回答を頂いた通り登記を申請したところ、新潟地方法務局では問題なく登記が完了しましたが、法務局や登記官により回答が異なる場合も考えられるため、その都度照会をかけることが一番良いのでないかと思われます。

 

〇相続登記は専門家へ

日本人が樺太に本籍地をおいていたことがある期間は1905年頃から終戦の1949年までであるため、今後、樺太を戸籍上で目にすることはどんどん少なくなっていくと考えられますが、もし相続手続の際に樺太が出てきたとしても、焦らず、お困りの際は弊所までご相談下さい。